医学生と臨床医で得意分野がちがう!?医師国試と専門医試験の動向と対策

この記事は、2023年11月13日に更新されました。
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Ⅰ. 国家試験は実地臨床重視へシフト

 

 

-1. 臨床問題の数が相対的に増え、ポリクリの内容が問われる時代に。

近年、医師国家試験の出題傾向は大きな転換点を迎えています。

厚生労働省HPより転載 (厚生労働省HPより転載)

第112回医師国家試験から、試験日程が3日間から2日間に短縮され、出題数も500問から400問になりました。
必修問題を除き、一般問題と臨床問題は従来通りの相対評価になりますから、一問あたりに占める点数の重みは大きく変わりません。 しかしながら、出題数の内訳に注目すると、一般問題が200問から100問に変わっています。
一方、臨床問題は200問のままです。

また、第107回国試の尿道留置カテーテル操作の手順を問う問題をはじめ、動脈穿刺時のセルジンガー法のながれ、エコー手技時の至適体位といった、臨床実習にちなんだ問題も散見されます。

このような出題数や出題内容の変化がなにを表しているかというと、試験の傾向が臨床の思考過程を重視する流れに移行していることを指しているのです。

臨床重視の傾向は第100回以前からみられていましたが、日程変更にともなう一大改正にあわせて、より大胆な路線へ一気にシフトしたとみるべきでしょう。

今後はクイズ形式の知識を問う問題よりも、応用を効かせた文章問題が増えることが予想されます。
従って、いままで語呂合わせや過去問に頼ってきた学生は苦戦を強いられることが必至です。

 

 

-2. 今後は、医師国家試験の”質”の担保が課題!?

ちなみに、『全国医学部長院長会議』という法人組織が毎年おこなっている「医師国家試験についてのアンケート調査」では、試験問題の質には年ごとのばらつきがかなり多いようです。

この調査は、もともと医師国試の内容の妥当性を検証するための企画のようですが、受験生の恨み節に終始しないよう、教員もアンケート調査対象にふくまれています。ですから、信頼性はそれなりに担保されているのではないかとおもいます。

”試験問題の質”といっても、
「難しすぎる」
「カンタンすぎる」
とさまざまですが、臨床力を問う凝った応用問題にしようとすると、不適切問題になりやすくなります
なぜならば、必然的に情報量の多い文章問題になり、鑑別疾患が増えてしまうため、よほどうまく作らないと受験生を困惑させるだけの悪問になりうるからです。

出題者としては、決まりきった解答を答えさせる一般問題をつくるほうがラクなのです。
不適切問題にされにくいのですから。
ですが、医師国家試験自体が実地研修を活かした臨床問題重視にシフトしている以上、出題者も頭をかかえながら文章問題を作成するハメになったのです。

 

 

-3. 試験問題の良問と悪問

医学生の試験を作成された方も少なくないのではないでしょうか。ご存知の方もおられるでしょうが、「問題文を作成する」にも、様々な規定があることを申し上げたいと思います。

たとえば、ひとつの設問につき、選択肢の内容には一貫性をもたせること

・・・なんのことかというと、これは実例を挙げた方がわかりやすいと思います。

< よい例>
問  WPW症候群で認められる心電図変化として正しいものはどれか。
a) QTの延長
b) f波の出現
c) デルタ波の出現
d) hyper acute T波の出現
e) 完全左脚ブロックの出現
※回答 c)

< 悪い例>
問  WPW症候群の特徴はどれか。
a) 冠動脈バイパス術の適応がある。
b) 薬物療法としてジギタリスを用いる。
c) 早期興奮症候群のひとつであり、発生機序はケント速を介した房室結節回帰性リエントリである。
d) 根治的治療はカテーテルアブレーションであり、その根治率は93%~95%である。
e) WPW症候群はA型~C型に分類される。
※回答 e)

上記において、なにがちがうかというと、< 悪い例>の方では、
・各選択肢が疫学的特徴、発生機序、治療とバラバラで、問題文自体のフォーカスがまとまっていません。
a)とb)、d)は治療の内容なのに、c)とe)は疫学や機序について触れていますよね。

・文章が長く、ひとつの選択肢に複数の情報が記載されています。
とくにc)は早期興奮症候群のことを問いたいのか、ケント束の存在を問いたいのか、房室結節回帰性と房室回帰性のちがいを問いたいのか、受験者は面食らってしまうでしょう。
(ちなみに、文中のケント”速”は、正しくはケント”束”ですが、悪問にはこういった誤字も散見されるので、あえて修正せずに誤字のままとしました。)

・d)とe)は、学生レベルとしては難易度が高く、プライマリケアの範疇を明らかに逸脱しています。

・選択肢は、受験者に対する見やすさを意識して、その字数が短い順に並べるのが鉄則ですが、この例では字数順に選択を配列していません。

・・・といったところです。
出題者は、こうした様々な規定のうえで問題を作成しなければならず、限られた情報をいかに整理して、かつそれなりに正解してもらえるようにと苦心しています。 ウラを返せば、知識を問う問題を作るには、どうがんばっても”プール問題”という揶揄に甘んじながら、例年似たり寄ったりにならざるをえないのです。

こうした事情をふくめると、実習での実地問題の方がバリエーションが利くため、徐々に実地問題を重視するようになってきた、ともいえるのです。

(ちなみに、『めどさぽ!』でアップしている練習問題は、「解きながら知識をまとめていただく」を趣旨としていますので、上記の鉄則はあえて無視して作成しています。)

このような背景を考えますと、問題文のバリエーションが増えてきたぶん、今後は不適切問題が若干増えてくるのではないか、という気がしています。

目下のところ、不適切問題への予防策はありません。
受験する側の最大の弱みでもありますが、悪問を突きつけられたとしても、拒否権はないのです・・。
現状では、
「不適切問題が多くても大丈夫なように、ほかの問題で得点を落とさないように基本事項をきちんとおさえておく」
という月並み程度のアドバイスしか思い浮かびません・・・。

 

 

Ⅱ. 総合内科専門医試験は一般問題がカギ!?


総合内科専門医試験はどうでしょうか。
こちらについては自分の専門外の領域から試験勉強が始まります。

普通は過去問にすら手も足もでません。

日常的に冠動脈や不整脈の治療に従事しているドクターに、最新の肝炎に対するインターフェロン療法の特徴を尋ねても、的確に返答することは難しいでしょう。

総じて、臨床問題に比べて一般問題の方が問題文中にある回答のヒントが少なく、正答率が頭打ちの傾向にあると言われています。つまり、現役ドクターは、専門外の知識を知っているかどうかを問うだけのシンプルなクイズ形式の一般問題に弱いのです。

国家試験と専門医試験を比べると、一般問題と臨床問題の事情が真逆となるのは興味深い現象ですね。 受験対象が臨床を知らない医学生か、もしくは臨床慣れした現役ドクターなのかによって、作成される出題傾向は(当然ですが)がらりと変わるものです。

試験というものは、基本的には受験者を落とすものですから、受験者の苦手とする部分を重視します。
よって、医学生は臨床問題に慣れなければなりませんし、専門医試験を受けるドクターは一般問題に慣れなければなりません。
それに加えて、正解率の高い常識的な問題をいかに落とさないようにするか、そして出題されやすい最新のトピックスをおさえているかどうかがカギとなる点は、国試でも専門医試験でも共通でしょう。

 

 

Ⅲ. 知識の整理と病態生理をおさえよう

まずは苦手分野の知識の整理から始めましょう。

”腸管循環”、”レニン・アンジオテンシン系”、”気道リモデリング”、”ネフロン機構”、””・・・日常的に耳にする生理についてですが、非専門領域だと何となくの理解になっていないでしょうか?

問題集を解いてポイントをおさえていく必要がありますが、基本を地固めしておかないと、徐々に問題と答を暗記するだけの作業になってしまいます。

国試対策の方は必修問題をパーフェクトにすること、専門医試験対策の方は国試の基本問題をしっかり復習しておくことが重要です。

国試対策の方、もしくは基礎知識の地固めを考えている方は、口頭試問形式練習問題を、ぜひご参照ください。

また、専門医試験を考えている方々から、「いつから試験勉強にとりかかればよいの?」という質問を頂くことがあります。そちらについても詳しく述べておりますので、『専門医試験対策はいつから始めるの?』をご覧ください。

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