有意差が出なくてもOK!?イバブラジンの謎-前編-

【この記事は、2019年12月7日にUPしました。】

朝比奈先生
・・・・・。

吉永さん
朝比奈先生。
どうされたんですか?

池田くん
もの思いにふけってる人にズケズケと突っ込んでいけるのが吉永さんのすごいところだ。

吉永さん
なんか言った、池田くん?

池田くん
い、いいやっ!
なにもっ!

池田くん
・・・カンもするどい。

朝比奈先生
SHIFT試験と、J-SHIFT試験についての解釈なの。

吉永さん
えーと、・・・イバブラジン(コララン®)?

池田くん
洞結節抑制薬ってことは・・・。
人工的に洞不全にさせちゃうってことですか?

朝比奈先生
ええ、おもしろい表現するわね。
慢性心不全の予後改善には、心拍数を抑えることが重要だと言われているわよね?

池田くん
そうみたいですね。エコ運転させて長持ちさせましょうってことですかね。

吉永さん
逆に頻脈だと夏場にマラソンするようなもんでしょうから。

朝比奈先生
そこで、洞結節を選択的に抑えるイバブラジン(コララン®)が登場したの。

朝比奈先生
欧州のガイドラインにも記載されるようになって、しばらく経つわね。

吉永さん
2019年になって、ようやく日本でも解禁になったんですね。

朝比奈先生
ところが、あらためてイバブラジン(コララン®)を勉強してみようと思って文献を取り寄せてみたんだけど・・・。

池田くん
なにか問題が??

朝比奈先生
まったくもって不可解なのよ。

池田くん
??

朝比奈先生
SHIFTも、J-SHIFTも、
「心不全による入院数は減ったが長期予後は変わらなかった」という結果なの。

池田くん
んん?

吉永さん
えーと、日本人対象のJ-SHIFTだと、患者背景が重症弁膜症と持続性以上の心房細動を除く非虚血性心疾患症例が60%以上、かつ大半がNYHAⅡ°・・・。

吉永さん
これってつまり、安定した拡張型心筋症(DCM)とか肥大型心筋症(HCM)の患者さんがほとんどってイミじゃないですか?

池田くん
観察期間が1年間のようですから、この短期間での生命予後を調べるとなると、心不全死云々というより、突発的な致死性不整脈の出現頻度に左右されるんじゃないでしょうか?

朝比奈先生
二人とも、そのとおりよ。
ところが、J-SHIFTのTable.2にはその詳しい死因が記載されていないの。
重複例を併記しているのかなんなのか、総数も合わないしね。

吉永さん
イバブラジン(コララン®)で「心不全入院は減ったのに生命予後は変わらない」という現象こそ、このJ-SHIFTの最大の考察部分なんじゃないですか?
なのに、discussionにはあまりクリアなことは言及されていないみたいですね。

池田くん
Figure.3の複合アウトカムの内訳がひどいです。

吉永さん
カプランマイヤー曲線をみると、Figure.3Cの心不全入院はたしかに減ってるように見えるけど、Figure.3Bの心血管死の方にはまったく差が無いわね・・・。

池田くん
Discussionで、
「複合アウトカムのハザード比が1.0を下回ったからimproved」
と連発していますが、こんな抱き合わせじゃあimprovedもなにもないんじゃないでしょうか。

朝比奈先生
まあ、もともとこのJ-SHIFTは、イバブラジンを日本で発売するにあたって、有効性よりも安全性を確認することに主眼をおいているからね。

朝比奈先生
イバブラジン(コララン®)自体の効果は、本場のSHIFT試験で実証済みなわけだから、症例数nを稼げない日本においては、SHIFT試験との類似性さえ示せればp値は問題にならないってことなのよ。

池田くん
ええーっ!?

朝比奈先生
そういうデザインの試験だから、結論にこだわってもナンセンスなのかもしれないけど・・・。

朝比奈先生
でも、その大元であるSHIFT試験自体で、心血管死の予防効果に有意差が出ていないのよね・・・。

池田くん
んん?
欧州でのSHIFT試験のTable3とFigure.4をみると、心不全死には18%の有意差が出ているみたいですけど・・・。

朝比奈先生
確かにね。
ただ、95%信頼区間にかなり開きがあるのよ。

池田くん
心血管系の死亡だと信頼区間0.80-1.03(p=0.128)、
一方で、
心不全死だと信頼区間0.58-0.94(p=0.014)・・・。

朝比奈先生
これは、値にかなりバラつきがあるっていうことよ。

吉永さん
”大規模”で、”ランダム化”しているのに・・・ですか?

朝比奈先生
他の項目の信頼区間はそれなりに狭いのに、
どういうわけか、心不全死だけバラついているのよ。

池田くん
人為的・・・とまでは言わなくても、なにかバイアスがかかったんでしょうか。

朝比奈先生
そもそも「心不全死」の定義自体が、他の項目に比べて曖昧だしね。

朝比奈先生
「p値が出ないけどOK!」も変なハナシだけど、「p値が0.05未満だから無条件にOK!」というのも、雑なハナシだと思うの。

池田くん
有意差の質に疑問符がつくってわけですね。

吉永さん
有効性が立証されていないクスリなんて、イミがないんじゃないんですか?

池田くん
またリスキーな発言を・・・。

朝比奈先生
ちなみに、この「心不全入院」というアウトカムは、ソフトエンドポイントよね。

吉永さん
はい。

池田くん
採血結果とか生死とか、揺るがしようの無いアウトカムをハードエンドポイントというんでしたね。

朝比奈先生
2012年のディオバン事件でもっぱら取り沙汰されるようになったけど、「心不全入院」のようなソフトエンドポイントには、研究者の恣意性が反映されやすいとされているわね。

吉永さん
今回のSHIFTとかJ-SHIFTは・・・。

池田くん
無作為化、二重盲検化・・・、と、公平性はありそうじゃないですか?

朝比奈先生
本文には「全症例の心拍数やBNP値、NT-proBNP値はcentral laboratoriesが管理した」とあるけど、同時に心拍数が50-60bpmになるように投与量を調節したとあるの。

吉永さん

朝比奈先生
これって、
「プラセボ薬もdose upした」
と記載されてはいるけど・・・、実際に心拍数の下がり具合を見れば、プラセボ群かイバブラジン群かなんて、すぐにバレちゃうんじゃないかしら?

吉永さん
あ。

朝比奈先生
見た目はランダム化と盲検化されているようだけど、実際上の試験の公平性自体はビミョーかもしれないわね。

朝比奈先生
Figure.2Aのプラセボ群でも心拍数が10bpm下がっているのが興味深いところなんだけど・・・。

池田くん
そうなると、「心不全入院の差」をどう解釈するべきか、一歩下がって考える必要がありますね。

吉永さん
・・・あれ?

池田くん
どうしたの、吉永さん?

吉永さん
Figure.5って、心エコー指標の変動を示していますよね?

朝比奈先生
ええ、そうね。

吉永さん
「両群のEDV(左室拡張期容量)に差が出なかった」
って・・・変じゃないですか?

池田くん
あー、たしかに。
徐拍化されれば、左室流入期が伸びるからEDVは増えるハズですよね。

吉永さん
ゆっくりたっぷり血液を貯め込んで押し出す・・・というのが徐拍化されたときの心臓の動きじゃないですか。

吉永さん
なのに、このJ-SHIFTだと、EDVは変わらないで、ESV(左室収縮期容量)低下、EF(駆出率)上昇、そして血圧が上昇する傾向だった・・・というのは、一体どんなカラクリだったんでしょう?

朝比奈先生
いいところに気が付いたわね、吉永さん。

朝比奈先生
残念ながら、discussionにはそのことも詳しく考察されていないわ。

池田くん
なんのためのdiscussionですか!?

吉永さん
「EDVが変わらない」・・・?

吉永さん
・・・。

吉永さん
・・・。
「EDVが増えるハズだったのに、なんらかの理由で増えなかった」と考えてみれば・・・。

池田くん
EDVが増えないって、脱水とか失血とか、あと前負荷軽減のクスリなりNIPPVなり・・・って、これくらいしか思い浮かびませんよ。

吉永さん
それよっ!

池田くん
は?

吉永さん
このJ-SHIFTのTable.1を見てみて。

池田くん
あ、丁寧にあつかって・・・。
論文が破けちゃう・・・。

朝比奈先生
ナヨナヨしてるわね、池田くん・・・。

吉永さん
ほら。
利尿薬を内服している率が、両群とも90%近くにのぼっているわ。

吉永さん
本文のMethodsには、「試験期間中は心不全へのクスリの変更はしなかった」と明記してあるから、たぶんフロセミド40mgなら40mgのまま、延々と同一処方され続けたんじゃないかしら。

池田くん
夏場も?

吉永さん
夏場も。

池田くん
血圧がひくいときも?

吉永さん
血圧がひくいときも。

池田くん
夏場にのどが渇いたときも?

吉永さん
・・・のどが渇いたときも。

池田くん
冬場に暖房を消し忘れて汗だくになったとき・・・

吉永さん
しつこいわねっ!

池田くん
あ、怒らないで・・・。

朝比奈先生
・・・。

吉永さん
それに、さっき朝比奈先生の言っていたとおり、心拍数は50-60bpmに強制的にコントロールされちゃってるんだから、担当医はバイタルサインの変化に気が付きにくかったんじゃないかしら。

appendixに有害事象の詳細が書かれていないから、確かめようがないけどね。


池田くん
でも、そうだとすると、
①徐拍化されても脱水でvolume自体が少なくEDVは満たされない
②そして脱水で過収縮に陥るから、ESVは下がり、見た目のEFは上がる。
③さらに、うっ血にはなりにくいから心不全の再入院は減る。
④一方で、有効な心拍出量が増えるわけじゃないから、心不全死の回避にはつながらない
・・・と、ツジツマが合いそうだね!

吉永さん
それに、J-SHIFTでは持続性心房細動症例が除外されているから、atrial kick(左房収縮による、左室への能動的な血液流入の作用)は保たれているとみていいわよね。

吉永さん
だから、ちょっと脱水に陥ってもなんとか心拍出量をギリギリ保つことができて、見た目のadverse event数は増えなかったんじゃないかしら。

池田くん
ああ、だから血圧上昇の項目がp=0.08と、いまひとつ有意差を示し切れていなかったのかも。

朝比奈先生
すごいわ、吉永さん。
よくそこまで推論できたわね。

吉永さん
え、へへへ・・。

朝比奈先生
だけどね、やっぱり解せないのよ。

吉永さん
え?

朝比奈先生
だって、脱水状況下ということであれば、それはプラセボ群だって条件は同じじゃないかしら?

吉永さん
あっ!

朝比奈先生
だからね、心不全の増悪に差がつく理由が、ますます解せないの。

池田くん
う、うーん。これはたしかに難しいぞ・・・。

☞有意差が出なくてもOK!?イバブラジンの謎-後編-につづく。

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