COVID19(SARS-CoV2:新型コロナウイルス)のゲノムの特徴 -SARSとの相動性とACE2受容体との関連性-

【この記事は、2020年3月6日に修正しました。】

池田くん
もう、いつテレビをつけてもコロナ、コロナですね。

吉永さん
朝から晩までCOVID19の報道ばかり。
yahoo!のトップニュースでも『新型コロナウイルス』の名前が出てこない日はないですね。

朝比奈先生
健康な若年者でも命を落としていることが発覚してから、政府とマスコミの姿勢が変わってきた印象ね。

吉永さん
政府の方は、国民がパニックに至らないように火消しに奔走している雰囲気があります。

池田くん
オリンピックに影響が出ないように・・・と邪推されたり、対応が後手後手だという批判もされたりしているけど、厚労省をはじめとした政府職員も一生懸命にやっていると思うけどな。

吉永さん
いいのよ、池田くん。
無理して他の人とちがう意見を言わなくっても。

池田くん
そんなんじゃないよ。
ただ、だれも予測がつかないものだったんだから、寄ってたかって責め立てるわけにはいかないじゃないか。

朝比奈先生
あら、優しい意見をいうのね。

池田くん
平成の時代に、震災をはじめとするいろんな災害に見舞われてきた教訓ですよ。
こういうときこそ、寛容の意思をもたないと。
大変なときこそ、励ましあうべきじゃないですか。

吉永さん
いやだわ、池田くん。
ちょっと自分に酔ってるんじゃないかしら?

池田くん
でも・・・。

朝比奈先生
でも?

池田くん
「防ぎようがない」
「治しようがない」
そういう疾患に、いつ自分がかかるかわからないのは確かに恐怖ですよ。

池田くん
もっと実態がわかってくれば、安心感も持てそうなもんですが・・・。

吉永さん
現状は、だんだん集団ヒステリーじみてきているしね。
意味不明な「〇〇がコロナに効く!」とか、トイレットペーパーの買い占め騒動とか・・・。

朝比奈先生
”知らない”
”わからない”
だから怖いのよ。

朝比奈先生
患者さんたちに安心感を与えるのも医療者の責務だと思って(本来はそれは行政の仕事だけど、まさに”寛容の心”で・・・)、しっかり確たる情報を集めましょう。

池田くん
はい。

朝比奈先生
まず、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の構造からおさらいしましょう。

吉永さん
構造って・・・ゲノム解析とかですか?

池田くん
・・うへえ・・・。
ぜんぜんわからない分野です・・。

朝比奈先生
だから「怖い」のよ。


池田くん
うわー!!知らない単語ばかりですっ。

池田くん
ムリですよ、ムリ。

朝比奈先生
・・・なよなよしてるわね、池田くん。

朝比奈先生
じゃあ、概説だけ述べるわね。

朝比奈先生
まず、今回同定されたCOVID-19の原因ウイルス・・・つまりSARS-CoV2はβコロナウイルスだったの。
(注:COVID-19とSARS-CoV2の名称がつけられる前の論文なので、本文では”2019-nCoV”)

吉永さん
すみません、βコロナってなんですか?

朝比奈先生
コロナウイルスにも、いくつか種類があるの。
HCoV-229E、HCoV-NL63、MERS-CoV、SARS-CoV、HCoV-OC43、HCoV-HKU1・・・といったところかしらね。

朝比奈先生
前2者のHCoV-229E、HCoV-NL63はαコロナウイルス。
そして後2者のMERS-CoV、SARS-CoV、HCoV-OC43、HCoV-HKU1はβコロナウイルスよ。

前2者のαコロナウイルスは、一般的な風邪を起こすだけだからあまり危険ではないわ。


吉永さん
今回見つかったCOVID-19のウイルスがβコロナってことは、あのSARSやMERSの仲間なんですか?

朝比奈先生
そうね。
COVID-19の原因ウイルス名がSARS-CoV2と名付けられていることからも推察できるとおり、2003年に世間を騒がせたSARSの仲間のウイルスよ。

朝比奈先生
今回の報告では、COVID-19のSARS-CoV2とSARS様ウイルスとの間には、遺伝子学的に約88%の相動性が認められたようね。

池田くん
相動性・・・えーと、”共通の祖先”っていう意味でしたっけ?

吉永さん
いやだわ、池田くん・・・。
こっそりググってたのに知ったかぶりをして・・・。

朝比奈先生
まあ、似た者同士ってことね。

朝比奈先生
だから、日本ウイルス学会のホームページにも記載されているけど、SARSのときの教訓を活かせるんじゃないかって期待されているのね。

池田くん
ははぁ・・・なるほど。

朝比奈先生
もう少し説明を補足するとね。
COVID19のSARS-CoV2との相動性が88%だったのは、ヒトに対するSARSウイルスそのものではなくって、コウモリ由来のSARS様のウイルスなの。

吉永さん
じゃあ、ヒトに悪さをするSARSウイルス(便宜的にSARS-CoV1とでも呼ぶべきか)との相動性はどのくらいなんですか?

朝比奈先生
この論文では、SARSウイルスとの相動性は79%、そしてMERSウイルスとの相動性は50%だったようね。

朝比奈先生
また、相動性が高かったコウモリ由来のSARS様ウイルス(本文での表現は、bat-SL-CoVZC45、およびbat-SL-CoVZXC21)とも一部の構造が異なっていて、同一ではないようね。

吉永さん
似て非なるもの・・・ということは、
(仮にSARS-CoV2がコウモリからヒトにうつったものだとしたら・・・ですが、)
コウモリからヒトにうつる途中段階で、なにか中間宿主がいたために少しウイルスの構造が変化したってことですか?

朝比奈先生
するどいわね、吉永さん。
ハッキリと断定できないんだけど、何らかの中間宿主の動物がいた可能性はあるわ。

吉永さん
今回の騒動の発端が、生きた動物を販売していた海鮮卸市場だったのは、そういうことだったんですね。

池田くん
だとすると、まずいですよ。

池田くん
その中間宿主も同定しないと、いくらヒト側でCOVID19を抑えても動物側で蔓延したら、もう手に負えなくなるじゃないですか。
世界中がその海鮮卸市場になっちゃいませんか?

吉永さん
いやなこと言うのね、池田くん。

池田くん
えええ!?
(なぜ、叩かれる??)

朝比奈先生
そこは池田くんの言う通りなんだけど、それに関しては現地の調査が進むことを願うしかないわね・・・。

朝比奈先生
最後に、COVID19のSARS-CoV2が体内のどこに取り付いて悪さをするのか、気にならない?

池田くん
そうですね。
どこで悪さしているかがわかれば、治療方針の手掛かりになるでしょうから。

朝比奈先生
今回の報告だと、SARSウイルスと同じく、アンジオテンシン変換酵素(ACE)2受容体に結合して悪さをおこすようね。

吉永さん
ACEといえば、レニン・アンジオテンシン系のことですか?

池田くん
レニン・アンジオテンシン系って、体内に水と塩をため込むシステムのことでしたよね。

池田くん
脱水のときにオシッコが濃く、そして少なくなるのは、このレニン・アンジオテンシン系がはたらいて、体内から水と塩が逃げ出さないようにしてくれているからでしたよね。

朝比奈先生
そうね。
ただ、このACE2受容体はレニン・アンジオテンシン系を抑える働きをしているの。

吉永さん
えーと、体から水と塩が逃げるのを邪魔する・・・のをさらに邪魔するんだから、・・・つまり「ACE2は体から水と塩を捨てちゃう」ってことですか?

朝比奈先生
ざっくり言えばそうなるわ。
それって、心臓としては前負荷が楽になるってことよね。

池田くん
そうですね。
前負荷・・・つまり心臓の左室に流れ込んでくる血液量が減れば、それを押し出す心臓の立場で言えば荷物が軽くなるようなもんですから

朝比奈先生
SARS-CoVもSARS-CoV2も、そうしたACE2の受容体に結合して、ACE2のはたらきを邪魔するの。

吉永さん

朝比奈先生
そうなると、レニン・アンジオテンシン系と、それの抑制系であるACE2のバランスが崩れて、体内・・・もう少し正確に言えば血管内の水が増えてしまうわね。

池田くん
だから、肺炎というよりも両側性の肺うっ血像を示したり、心血管系の既往がある人がハイリスク例になるんですか?

うーん、それにしてはちょっと短絡的な気も・・・。


朝比奈先生
池田くんが違和感を感じているように、COVID19がACE2受容体に結合することが多少なりとも病態に絡んでいる可能性はあるけど・・・、まだまだ断定的なことはいえないわね。

朝比奈先生
だいたい、左室前負荷が増すから重症化する、という単純なハナシであれば、フロセミドのような利尿薬を使えば済むハナシよね。

吉永さん
それに、前回紹介した、99例と138例の後ろ向き研究によると、COVID19の肺炎ではARDSを合併する、とあります。
ARDSの定義自体、うっ血性心不全の除外からスタートしますから、ACE2阻害のみではちょっと説明がつきにくいですもんね。


池田くん
あ、すごい!
Nature誌で日本人が筆頭著者だ。

吉永さん
見るとこはそこじゃない・・・。

朝比奈先生
ACE2ノックアウトマウスの肺にEvans Blueを入れて調べてみたところ、アルブミンの漏出が目立ったの。肺障害に直結しうる肺血管そのものからの血液漏出・・・つまりARDSの発生が示唆されたってわけね。

池田くん
Evans Blueって、血液中のアルブミンと親和性が高いんでしたよね。
だから、この色素が血管外に漏れてくれば、漏出ということになるんですね。

朝比奈先生
そのほか、ACE、アンジオテンシンⅡといった、いわばレニン・アンジオテンシン系全体がAT1a受容体を介して肺障害を進行させてしまう、とも書かれているわ。

吉永さん
論文中のFigureをみると、肺組織が全然ちがうのがわかります。

朝比奈先生
SARSと似たような悪さをするようだ、というのが徐々に明らかになってきているし、ACE2に限らず、日本感染症学会が中心になって日ごとに新たな知見を取り上げているようだから、”何がわかってきたのか”を、こまめにチェックする必要があるわね。

吉永さん
3月2日に掲載された、シクレソニド(オルベスコ®)がCOVID19に著効した報告などはインパクトがありましたしね。

朝比奈先生
ええ。
シクレソニド(オルベスコ®)がSARS-CoV2を蹴散らしたかも・・・なんてね。

朝比奈先生
中国の後ろ向き調査では喘息の既往があるとハイリスクとされていたけど、シクレソニド(オルベスコ®)を使っていた人はどうだったのかしらね。

池田くん
・・・かと思いきや、同時期のテレビなんかで「新型肺炎予防のためにツナサンドを食べよう」なんて無根拠なこともやってましたが・・・。

・・・しかも医師監修。


朝比奈先生
2020年3月の現時点でも、本当にいろんなデマが飛び交っているけど、わずかな知見から飛躍しすぎた独りよがりの考えが一人歩きをしちゃうことがあるから、我々も気を付けないとね。

池田くん
そうですね。
騙されないようにするだけではなく、無自覚に医療者側から騙してしまわないように、新しい知見はなるべく早くチェックするべきでしょうね。

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